■マコの傷跡■

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chapter 44



~ chapter 44 “母との溝” ~ 

通院していた病院の先生に「今度お母さんを連れていらっしゃい」と言われた。
心療内科に通院している事は母親には言っていなかった。
連れて行くからには話をせざるをえない。

母に思い切って通院している事を告げてみた。
母は驚いていたけれど、しっかり話を聞いてくれていた。
「あなたは昔からいつも明るい子で安心していたけど、無理していたんだね。
お母さんのした事で、そんなにつらい思いをさせてしまって、ごめんね・・・」
母は泣いていた。私も話しながら泣いた。
先生に一緒に来てもらうように言われた、と告げると
「もちろん行くよ、お母さんも先生と話してみたいから。」と言った。
それから「これからは何でも、あなたの思った事を素直にそのまま言ってちょうだい。」と。

「親子なんだから、一緒に考えて一緒に悩んで行こう。
無理する必要も、我慢する必要もない、
言ってくれないとお母さんは解ってあげられないから・・・。」

それから少しづつ母と話す時間が増えた。

父は優しい人だが優柔不断な所のある人だ。母はそれが頼りなくて不安だったようだ。
娘の視点から見ているとあまり感じなかったけれど、
もしも自分の夫だったらどうかと考えてみると確かに父にも足りない部分はあったように思う。
父以外の誰かに気持ちを寄せたくなってしまう母の気持ちも今なら理解できるような気がした。
私だって今までさんざん寂しさを埋める為に誰かに頼って来てしまったのだから。
離婚のキッカケは母が作ったけれど、長い夫婦生活の中で母がそうしてしまうには
父側にもきっと原因があったのだろう。
夫婦の事は、きっとその夫婦にしかわからない。
もしかしたら、私がサーファーの彼と別れてそれでもまた受け入れてもらえると思っていたのと
同じような甘えを、母も父に対して持っていたのかもしれない。

子供の頃、親はもっと大きくて正しくて間違わない、強い存在だと思っていたけれど
母も父も一人の人間でしかなく、悩みもするし間違いも起す。
心のゆとりを失う時だってある。
人間だからそれは仕方のない事で、たまたまその時に私が子供でいただけの事だ。
そういうことが徐々にわかってきた。

しばらく離れて暮らしていた間に母はずいぶん丸くなった。
昔はもっとピリピリした人だったのに・・・。
「なんかずいぶん変わったよね。悪いけど、昔は相当おっかなかったよ。大嫌いだったもん。」
私が冗談交じりに笑って言うと、母は恥ずかしそうに
「えーそんなに怒ってばかりだったかしら・・・。
あの頃は心にゆとりがなかったのかもしれないわねぇ。
でも、子供の事は全員、本当に大事に思っていたのよ。
大事だったから、ちゃんと育って欲しいと思ったのよ。」と言った。

きっとあの頃、母はとても疲れていたんだろう。身体も、そして心も。
そうして母との溝は少しづつ埋まっていった。



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